ペンローズタイリングからの非可換幾何

  • この記事では、ペンローズタイリングを例に、非可換幾何の道具立ての流れをなるべく簡潔に示し、その各ステップを理解するための周辺知識は後回しにすることを目指す
  • ペンローズタイリングは、あるタイプのタイリング(敷き詰め)パターンの集合。幾何学的でとらえどころがない
  • 順次、異なる数学対象に対応付けて行き、特徴を取り出しやすくする(数学対象を切り替えて計算しやすくして特徴づける。この計算しやすい特徴づけ〜同型判定の道具を不変量という(不変量 - Wikipedia)
  • その数学対象の切り替えは以下のようになる
  • ペンローズタイリングパターンを01無限列の同値類に対応付ける。タイリングの集合 → 01無限列同値類の集合
  • 同値類集合という空間を考える代わりに、その上の代数(の構造)を考える。無限次元複素行列であって、ある制約の入ったものがその代数。01無限列同値類の集合 → C*-代数=ある制約を持つ無限次元複素行列集合(無限次元複素行列集合の部分集合であって、C*-代数になっているもの)
  • C*-代数〜制約付き無限次元複素行列集合〜の空間を順序群に対応付ける
    • この対応付けに、K-理論を用いている
    • K-理論は、大きな行列の集合が空間になっているようなときに、その空間を分類(特徴づけ)る理論。より扱いやすい数学対象に対応付ける方法を提供する理論。異なる数学対象に対応付けるものが圏論では「関手」なので、「K-理論は関手の族を構成する」と説明されるK理論 - Wikipedia
  • 順序群は群そのものと、その正錐とのペアで定まる
  • 無限次元複素正方行列の部分集合(C*-代数)が、有限なそれ(有限次元複素正方行列の部分集合)の極限として定められたので、有限な順序群の極限としてとる
    • 無限次元極限を取る操作には、2つの低次元複素正方行列(2つの部分代数)の直和を取るので、極限としての無限次元複素正方行列の部分集合(無限次元C*-代数)は、2つの低次の複素正方行列(2つの部分代数)がそれぞれ対応する順序群の直和として表現される
  • 有限次元の順序群は、群そのものが整数に対応付けられ、正錐が非負整数に対応付けられる
  • 順序群のペアとして構成する順序群は、群そのものに対応する「整数の直和」の「極限」と、「非負整数の直和」の「極限」として特徴づけられる
  • ペンローズタイリングの場合、対応する順序群の群そのものに対応する「整数の直和」の「極限」は「整数の直和」となり、「非負整数の直和」の「極限」は、\{(a,b) \ in \mathcal{Z}^2; (1+\sqrt{5})/2 a + b \ge 0\}になる
    • これはどういうことかというと、2次元格子点(a,b)に、行列\begin{pmatrix}1 1 \\ 1 0 \end{pmatrix}を次々に掛けていくと、(a,b) -> (a1,b1) -> (a2,b2) ...と格子点が推移していく。\begin{pmatrix}1 1 \\ 1 0 \end{pmatrix}固有値黄金比rが現れるのだが、平面上の点(a,b)y = - r xより上にある点はy=1/r x上であって、x>0,y>0の点に収束する。y=-rxより下にある点は、同じ直線のx<0,y<0の点に収束する。その線上の点は、原点に向かって振動しながら収束していく。極限にて\mathcal{Z}^ \oplus \mathcal{Z}^+なる点に収束するようなオリジナルの格子点(a,b)は、y=-rxより上にある格子点であって、これが「極限としての非負整数直和」の条件。ちなみに、原点に「収束する点が、y=-rxの直線上を原点をまたいで振動しながら収束するので、n=1,2,...のいずれにおいても、非負整数直和になるようなオリジナル格子点はもう少し制約が強そうだ。。。その条件が\{(a,b) \in \mathcal{Z}^2 | 0 \le rx + y \le r+1\}なのかとも思ったが違いそうだ。この両側を不等式で挟んだ制約はhttps://www224.math.arizona.edu/~ura-reports/043/McMurdie.Christopher/Final.pdfこのPDFのp22の記載による
  • ペンローズタイリングの集合が、「整数の直和」と\{(a,b) \ in \mathcal{Z}^2; (1+\sqrt{5})/2 a + b \ge 0\}とのペアとしての順序群に対応付けられた
  • この最後の順序群の情報は、ペンローズタイリングの集合を切り換えて得られた数学対象であって、同型判定する能力があり計算が簡単なので、不変量と言える
  • W = \{\mathbf{w} =  (w_0,...,w_\infty) , w_i \in  \{0,1\}\}
    • 0,1で作る無限列の集合
  • K =\{\mathbf{z} = (z_0,...,z_\infty) \in W |  \forall i  z_i  z_{i+1} \in  \{00,01,10\}\}
    • 1の後は必ず0、というルールでできるWの部分集合K
  • R = \{(\mathbf{z},\mathbf{z'}) | \mathbf{z},\mathbf{z'} \in K \exists z_j = z'_j \forall j \ge n\}
    • Kの2要素の同一視ルール
  • X = K/R
    • Rという同一視ルールによるKの商空間がX
  • t, t' \in x \Longleftrightarrow (z^t,z^{t'}) \in R
    • x \in Xは(無限に広がる)ペンローズタイリングの1パターン
    • t \in xペンローズタイリングの1パターンxのタイルの一枚
    • tにはz^tが対応する
    • zが決まると(そのタイルを初期タイルとして)ペンローズタイリングが作れる
    • (z,z') \in Rのとき、別の初期タイルからz'によりペンローズタイリングが作られるが、それは同じタイリングになる
  • A := C*-algebra on X
  • a = (a_{z,z'}) \in M(\mathcal{C})_\infty, a \in A
    • Aの要素aは無限サイズ正方行列表現を持つ。その行列の行は(すべての)z、列は(すべての)z'、要素は(z,z')というペアによって番地指定される
  • \mathbf{\xi} = a(x) \mathbf{\zeta} = \begin{pmatrix} \xi_1 \\ \xi_2 \\ ... \\ \xi_\infty \end{pmatrix} = (\xi_z) = \sum_{z'} a_{z,z'} \zeta_{z'}, \forall \mathbf{\xi},\mathbf{\zeta} \in l^2_{x}
    • aはあるxを決めると、xに含まれる同一視zたちが張る無限次元ヒルベルト空間l^2_{x}のベクトル\mathbf{\zeta}に作用する作用素a(x)となる
    • a(x) \in L(l^2_x), \forall x \in X... ヒルベルト空間上の有界作用素全体がバナッハ空間をなすので、a(x)はl^2(x)というヒルベルト空間を考えたときにL(l^2_x)というバナッハ空間にある、という意味
    • (\lambda a + \mu b)(x) = \lambda a(x) + \mu b(x)
    • (ab)(x) = a(x) b(x)
    • \forall a,b \in A, \lambda,\mu \in \mathcal{C}, x \in X
  • K = K_\infty = \lim_{n \to \infty; \text{projective limit}} K_n
    • K_n =\{\mathbf{z} = (z_0,...,z_n) |  \forall i  z_i  z_{i+1} \in  \{00,01,10\}\}:長さn+1の有限列の集合
    • K_{n+1} \to K_nというprojectionがある
  • 1. いろいろなペンローズタイリングが点として存在する空間Xを作る
  • 2. 空間の上に関数を乗せて、その変化具合を考えるのが常道なのだが、このXは変な空間になっているので、Xに乗せた空間の様子表す関数も変。この関数(空間X上の点xを取る作用素)a,b,がC*-代数Aになっている(a,b \in A)
  • 3. a,b,...\in Aは無限次元正方複素行列の形をしている(複素行列はC*-代数の好例)。ただし、Xの構造・制約を反映して、一定の制約のある行列になっている。行列の行と列とは、Kの要素になっているので、行列の行zと列z’とに対応する要素をa_{z,z'}と書く。i行 j列の成分を使ってm = (m_{i,j})と行列を表すように、zに相当する行、z'に相当する列の成分を使ってa = (a_{z,z'})と書く
  • 4. Aの順序群(K_0(A),K_0^+(A))について考えたい。Aは無限サイズ行列の代数だが、それを考えるにあたって、有限版を構成し、その極限を考えるのだが、行列サイズを大きくするときに、z,z'の長さを1ずつ大きくすると、行列サイズがフィボナッチ数列的に大きくなる。今、有限長で考えると、Aの有限サイズ版A_nのサイズはfib_{n+2} \times fib_{n+2} = (fib_{n+1}+fib_{n}) \times (fib_{n+1} + fib_{n}); fib_0=1,fib_1=1となる。そして、それは、M(C)_{fib_{n+1}} \oplus M(C)_{fib_{n}}のように、2つの正方行列の直和の形(2つの正方行列を対角に並べたブロック対角行列)になる。これは、ある有限サイズのC*-代数A_nが2つの行列代数の直和になっていることを意味する
  • 5. C*-代数Aには不変量を計算することができて、色々な定義の分類を適用することができる。その不変量計算のやり方に、G. Elliottの方法があり、そこではAに順序群を見出して不変量を得る。この順序群をK_0(A)と書く。不変量を使うのがK-理論の基本的アプローチであるが、そのK-理論の道具がこのK_0(A)である。ここにvon Neumann環と射影作用素・射影行列が絡む
  • 6. 順序群は(Z,Z^+)という群Zとその部分群Z^+とのペアとして「順序構造を強調して」表現できる。Z^+とは、Zの要素のうち、非負に相当する要素の部分集合のことである。この部分集合を正錐という。この表現にならって(K_0(A),K_0^+(A))がAからできる順序群をその順序構造を強調した記載法である
  • 7. 順序群を考えるときには、Aの要素ペアに順序が定まる必要がある。2つの正方行列に順序を入れるときにProjection(射影行列)が登場する
  • 8. 代数A_nは2つの行列代数の直和になっているが、それぞれの行列代数は順序群になっているので、それぞれの行列代数を整数Zに対応付けることができるから(準同型、かな?)、A_nに対応する順序群はK_0(A_n)=Z \oplus ZのようにZの直和が対応する。正錐K_0(A_n)の方には同様にK_0(A_n) = Z^+ \oplus Z^+が対応する
  • 9. nの極限を取りたい。K_0(A)の方はK_0(A_n)=Z^2の極限がZ^2になるが、K_0^+(A)の方は、K_0^+(A_n)=Z^+ \oplus Z^+の極限がZ^+ \oplus Z^+にならず、K_0^+(A) =   \{(a,b) \in Z^2; (1+\sqrt{5}+2)a +b \ge 0\}になる
  • 上記、9. を中心に未消化だが、ひとまず、メモしておく
  • 以下、細かいことをメモしていきたい。。。
  • {0,1}を要素とする無限長列の集合F={00000...,1000000,...}を考える
  • Fに制約を入れて、Kという無限長列の集合を作る
    • その制約とは、1の次は0、というもの。したがって、0110....  \notin K
  • Kの要素に次のような同一視ルールRを入れて、その商空間X=K/Rを考える
    • 2つの無限長01列が、n番目以降、すべて同じであるなら、その2つの無限長列は同一視する
    • z \sim z' \Longleftrightarrow \exists n \text{ such that } z_j = z'_j \; \forall j \ge n
    • R = \{(z,z') _in K \times K ; \exists n \text{ such that } z_j = z'_j \; \forall j \ge n \} と同一視ルールを書く
    • 同一視される無限長列は無限個ある。それらをZ=\{z_1,...,\}とし、Zの2つの要素を考えるときは、z,z'のように書くことにする
  • この商空間X=K/Rの要素の一つ一つが、色々なペンローズタイリングの一つ一つを表す(一つ一つのペンローズタイリングは2種類のタイルで敷き詰められており、無限に広がっているパターンのこと)