Teichmuller space 事始め

  • Teichmuller space

Teichmüller space - Wikipedia
と言うのものがある

  • 曲面が構造を持っている時に、ある一定の特徴を共有する曲面の集合の要素を、その位相的な同値性を考慮した上で、同値とされた亜集合ごとに座標を与えて出来上がる多様体(manifoldではなくてorbifold)のこと
    • 「ある一定の特徴を共有する曲面の集合」と言うのは、例えば、genus 穴の数が g = 5であるような閉曲面、と言うようなもの
  • 定義としてはこんな感じで単純なので、対象を変えると、どうやって位相的な同値性を決めるか、とか、座標の値をどのように定めるか、とか、具体的な問題が変わるので、話がこんがらがってくる
  • このブログでの目標は、S2同相閉曲面上の三角化のTeichmuller spaceに興味があるので、目標をそこに置く
  • 残念なことに、そこをいきなり理解しようとすると、Teichmuller spaceの基礎事項を知っていることを前提とした資料に直面し、にっちもさっちも行かなくなるようなので、その手前からスタートする
  • 事始め、としては、genus, g > 1 の閉曲面に、Fenchel–Nielsen coordinatesと言う座標系の点を対応づける話を理解することとする
  • 資料はこちら
  • A pair of pants
    • 第一に、このa pair of pants と言う単語を理解しよう
    • リンク先資料の、一番最初の図がそれである

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    • いわゆる、半ズボンの形をした曲面。穴のない球面に3つの穴(2本の脚が出る穴と、1つの胴体が出る穴の3つ)があいた曲面のことである。二つの半ズボンをつなぎ合わせて、"A pair of two pairs of pants"などと書かれることもあって、混乱するので、「半ズボン」と呼ぶことにする。「二つの半ズボンの胴体穴同士をつなぎ合わせる」と表現すれば、4本の脚が出る胴体なしの生物用の服のことであることがわかりやすいはず
    • 第二に理解することは、g > 1 の閉曲面は、相互に交叉しない単純な(自己交叉しない)閉曲線によって、半ズボンに分けることができることである。リンク先資料の二番目の図がそれを表している。穴の数 g = 3 に対して、4つの半ズボンに分けられている

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    • 3g-3 本の閉曲線によって、2g - 2 個の半ズボンに分けられることになっている
    • 第三の理解ポイントは、ある特定のgの値を定めても、半ズボンの分け方は一通りではないこと
    • 例えばg=2の時、二つの穴の間に、穴をくぐらない閉曲線をとって、2分する。分離したそれぞれは、穴が一つしか開いていないので、その穴を胴体穴とみなし、その上で、できた2パーツの脚の出る穴を作る方法がある。他方、二つの穴を潜る閉曲線で切り開く。そうすると、曲面はまだひとかたまりのままで、胴体穴が2つ開いており、二つの半ズボンは脚の出る穴が、もう片方の半ズボンの脚の出る穴と縫い合わさっている状態なので、それを切り離して、二つの半ズボンを得ることができる

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    • 第四のポイントは、半ズボン曲面を双曲面とみなすことと、内角が全て直角な六角形が大事であること
    • 双曲面は、ガウス曲率が負(-1に統一するらしい)で、その上に多角形を描くと、その内角の和は、ユークリッド平面が要請する決まりを満たさなくて良い。具体的には、3つの穴(胴体穴、脚の出る二つの穴)のそれぞれの間に、測地線を引いて、穴の周囲曲線に垂直に刺入するようにできる。3本の測地線のそれぞれの両端が、穴の周囲曲線と直角に交わるから、内角が全て直角である六角形ができる。それを示したのがリンク先資料の四番目の図である。また、このように3本の測地線で六角形を作ると、半ズボンは二つの面に別れるが、2つの面はそれぞれ、六角形であって、内角は全て直角である

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    • 第五ポイントが最後のポイント。座標を入れる。Fenchel-Nielsen
    • 今、g > 1 閉曲面の全体を考えるが、ある程度の制約を入れる。全ての分割半ズボンが双曲面であり、分割閉曲線部分でも滑らかに連続しているような閉曲面に限定する
    • この時、閉曲線の取り方を決めると、その閉曲線は色々な取り方ができるが、最短線・測地線になるように限定する。こうすると、元の穴あき閉曲面の分割のやり方に応じて、3g-3個の閉曲線の「長さ」が確定する。この3g - 3 個の実数値が、Fenchel-Nielsen 座標の値の半分に相当する
    • 2g-2個の半ズボンから元の穴数 g の閉曲面を復元するには、どの半ズボンのどの穴同士を縫い合わせるかの情報がないと困る。それがあってこそ、元の閉曲面の情報を持っていると言える
    • リンク先資料の最後の図を見てみる。赤い閉曲線は、半ズボンに分割するための閉曲線

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    • それとは別に青い閉曲線が描かれている。よく見ると、青い閉曲線の数は、赤い閉曲線の数と同じである
    • 青い閉曲線は、赤い閉曲線から、2つの連結した半ズボンにそれぞれ向かう。一つの半ズボンに着目すると、出発した赤い閉曲線の向かい側にある「股」を通って、赤い閉曲線に戻ってくる。そしてもう片方の半ズボンに入り、同様に、赤い閉曲線の向かい側にある「股」を通って、元の点に戻る。このような曲線のうち、測地線になっているものを使うことにする。赤線と青線とは直角に交わる。このような測地線の長さは、オリジナルの閉曲面に依存する値である。この値は、赤い閉曲線の数だけあるので、3g - 3個の値が得られる。
    • 結局、赤い閉曲線と青い閉曲線(いずれも測地線)の長さとして、合わせて6g- 6個の値が得られる
    • この6g - 6個の値が、「閉曲面」のTeichmuller spaceにおけるFrechel-Nielsen座標と呼ばれるものである
    • 補足。最後にTwistと言う概念を書いておく。リンク先資料の下から三番目の図では、青い曲線が曲面上でぐるぐる巻きをしている。こう言うぐるぐる巻きは青曲線の長さを無駄に長くしてしまい、座標として一意性を確保できないことから、半ズボンの連結では、曲面をtwist(実際には、曲面上の「パスを無駄にぐるぐる回り」)しないで連結することを基本とする、と言う考え方がある

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  • ここまでのまとめ
    • Teichmuller spaceは
      • (1) 曲面の特徴を実数値のセットとして表してくれる。したがってある一つの曲面を多次元実数空間の点に対応づける
      • (2) 曲面を少しずつ変えると、実数値ベクトルも少しずつ変わることも知られている。その変化は微分可能であり、結局、曲面集合が多次元実数空間に埋め込まれた多様体とみなせる。これがTeichmuller space。また、実数値ベクトルの要素の積も、曲面の変化に応じて微分可能な関数となっており、そのことが記述されることもある
      • (3) なお、対象とする曲面はガウス曲率が至る所で -1 であるあるようなものが対象となる。つまり双曲面が対象となる(なんだ、つまんないじゃん、という感じがするが理由もある。一見、双曲面出ない対象を双曲面扱いすれば、Teichmuller spaceでの議論ができる、と思い直す方が生産的)
      • (4) 負の定曲率曲面では、連続して移り合える単純な閉路を同一視した時、ただ一つの最短なそれ(geodesic)なもので代表させられるとされる("Shear coordinates on the Teichmuller space of real hyperbolic surfaces with holes"のProposition 2.2)。これにより、曲面の位相的特徴を測地閉路長のセットに対応づけできることになる。また、いわゆるgenus 穴のある閉曲面は負の定曲率曲面でできた半ズボンの連結と位相的に表せることから、genus穴を持つ閉曲面の定量的位相特徴量の取り出しに使える
  • 三角メッシュのTeichmuller spaceの議論のための前置き
    • 全内角が直角な六角形の交互3辺を無限遠に飛ばして1点とみなすと、全内角が直角な三角形が現れる
    • その貼り合わせを三角メッシュとみなせる
    • この「貼り合わせ」って言うのが「ミソ」で、穴あき閉曲面も半ズボンの貼り合わせ、三角メッシュも辺の貼り合わせ
    • 貼り合わせは「ペアづくり」であって、特殊な置換(この辺りが全正値行列のminorに置換が出てきたことと無縁ではなさそう)
    • 無限遠点が登場するので、その点をcuspとして、超トンガリとみなしたり、小さい円周を無限にぐるぐる巻きにすることで無限遠点になるようにしたりする
    • g = 0なので半ズボンは登場しないが、その切れ端としての六角形は登場する
    • 半ズボン分割のための単純な閉曲線の取り方のパターンを曲面上の構造として、位相分類し、その閉曲線の取り方に依存して決まる測地距離を座標値としたが、三角形メッシュの場合は、閉曲面上の点集合に描く平面グラフ・三角メッシュのエッジ(arc)の取り方のパターンを曲面上の構造として、位相分類する
    • このTeichmuller spaceの座標次元は 6g -6 + 3k (kは曲面上のmark点の数)と言われている。例えばg=0の場合、3k-6がその次元。普通のg=0閉曲面上の三角メッシュでは、頂点数 u+2に対して、三角形数 2u、辺数 3u、であるしたがって、3k - 6 = 3(u+2) - 6 = 3u であり、これはエッジ数にあたる
    • 三角メッシュの場合のTeichmuller座標系はエッジに付与される値を座標とするものとして実現されることがわかる
    • ここから、エッジ団辺数とTeichmuller座標とに関係が生じるっぽい