駆け足で読む『歴史は「べき乗則」で動く Ubiquity The Science of History... Or Why the WOrld is Simpler Than We Think』

歴史は「べき乗則」で動く――種の絶滅から戦争までを読み解く複雑系科学 (ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ)

歴史は「べき乗則」で動く――種の絶滅から戦争までを読み解く複雑系科学 (ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ)

  • この本の邦題は『歴史の方程式』とした後で、変更して『歴史は「べき乗則」で動く』となったらしい
  • 原題は"Ubiquity The Science of History... Or Why the WOrld is Simpler Than We Think"
    • Ubiquity 普遍的な原理…
    • 「1度きりの歴史を貫く普遍的な原理」ということで、べき乗則を中心に「凍結した偶然」の蓄積、非線形、ネットワークなどが絡んだ内容
    • 「歴史の『方程式』」の「方程式」は単純すぎて合わないことになるし、「べき乗則」とすると、それ以外がこぼれてしまう…
    • 邦題は難しい
    • 「1度きりの歴史」と言うけれど、「この宇宙はパラレルワールド」であるのが真実で、ただし、僕らは、そのうちの一つの世界に属していて、それ以外とは没交渉、という考え方もあるそうなので、「神様にとってはたくさんのパラレルワールド」の普遍原理、「人間にとっては自分の帰属するワンワールド」の普遍原理
    • 「一度きり」なのか、「N回のうちのm回」なのかは、前者が「確率」、後者が「頻度」で、人間は「確率」は理解しがたく、「頻度」は理解しがたいと言う話が、こちらの話。これは、「パラレル vs. ワン ワールド」で言えば、「神様は理解しやすいところに居て、人間は理解困難な環境に置かれている」とも言える
  • 第1章 なぜ世界は予期せぬ大激変に見舞われるのか
    • 非平衡な物理学
    • 臨界状態
    • 経過・歴史が影響を与え続ける
    • 無限の過去にさかのぼるマルコフ連鎖・すべての個体の状態という歴史
  • 第2章 地震には「前兆」も「周期」もない
    • 規則があるはずだという信念の空回り。誤謬?
    • 地震予知・天気予報
  • 第3章 地震の規模と頻度の驚くべき関係
    • 大きい地震は低頻度・小さい地震は高頻度
    • べき乗則
    • スケール不変性
    • 小さなことが起きる原理とそれらが連鎖する仕組み
  • 第4章 べき乗則は自然界にあまねく宿る
    • フラクタル
    • 拡大しても縮小しても同じ
    • 「凍結した偶然」の蓄積としての進化
    • 拡散律速凝集(一度凝集すると自由に拡散できないようなプロセス)
    • どんな結晶ができるかは不明だが、それでも特徴のある結晶ができる(フラクタル)
    • 出来上がる結晶に認められる「特徴」が遺伝的にコードされている
  • 第5章 最初の地滑りが運命の分かれ道
    • 断層の枝分かれ具合もフラクタル
    • 地震とは、フラクタルな断層の成長過程の出来事
    • 純化したモデルの強み
    • ファインマン博士が「『どうしてそうなるのか』という疑問を抱いて知性の深みにはまってしまわないように」という警句を量子力学の学生に残したという
      • この警句の引用の意図がわかりにくいような…。「気になっている範囲に限定して『どうしてそうなるのか』と考えることは、『気になっている範囲』が不適切かもしれないから要注意」、と。
    • 地震は、起こりはじめたときには、自分がどれほど大きくなっていくか知らない」
    • 臨界状態の物理学のリバイバルと他分野(生理学・進化学・経済学・地球科学)への展開-第6章 世界は見た目より単純で、細部は重要ではない
    • 磁石の中の微小磁石の配列
    • 微小磁石同士の相互関係は距離に関してべき乗則に従う
    • その臨界状態はフラクタル
    • ガラッと変わる?→連鎖不平衡?
    • 臨界点では、いつ、どこでも、集団が組織化されうる状態であり、実際、集団が生まれては消える
    • 組織化の特徴量を決めるのは、幾何に還元できて、個々の分子の「質量」とか「電荷」とかは無関係
    • 臨界状態とべき乗則は表裏(か? いくつもある見え方の2つか?)
  • 第7章 防火対策を講じるほど山火事は大きくなる
    • 微妙な臨界状態と、自己組織的臨界状態
    • 山火事・バッタの集団発生・感染症の伝搬
    • 変数で調整される臨界状態。安定な自己組織的臨界状態の調整変数はロバスト(?)
    • 臨界状態からずらそうとしても、戻ってしまいがちな臨界状態
  • 第8章 大量絶滅は特別な出来事ではない
  • 第9章 臨界状態へと自己組織化する生物ネットワーク
    • 化合物のスープは触媒ネットワークを自己形成する
    • 生態系はネットワーク
    • 種の適応度地形は相互作用する
    • 種の適応度地形の相互作用変化〜進化〜にもべき乗則(1種の変化が結果として何種に影響を与えるか)
    • 種の絶滅モデルでは、生態系の階層性を組み込むことで、観測との整合性が高まった
    • また、生態系の階層性は、砂山モデル(自己組織的臨界)のように階層の転がり現象を有する
  • 第10章 なぜ金融市場は暴落するのか
    • 市場に参加する個人同士の相互作用によるべき乗則
    • 個人同士の関係とネットワーク
    • 個人のつながりはランダムではなくて、どちらかと言えば格子、ただし、そこに格子ルールからはずれた近道がある
    • 限定的な近道の存在により、すべての個人ペアの間の距離は短いあたりに集中する〜スモールワールド
  • 第11章 では、個人の自由意思はどうなるのか
    • 芝生の上の近道の生成
    • 都市の人口分布
    • 貧富の分布
    • 自由意思は細部
  • 第12章 科学は「地続き」に進歩するのではない
    • 歴史を語る「それは実際どういう出来事(の連鎖)だったのか」
    • 科学のパラダイムシフトは、大きな雪崩
    • 小さな雪崩はそこらじゅうにある
  • 第13章 「学説ネットワークの雪崩」としての科学革命
    • サイテーションインデックスもべき乗則
      • では、サイテーションインデックスで研究者の点数をつけるときには、べき乗を考慮するべきか
      • しかし、そもそも、予測不能な「雪崩」だから、そのことと研究「者」の評価は連動するのか、という不安ものぞく。マグニチュード8と5とでは、連鎖反応の大きさの違いしかないのか…
    • 虚心坦懐に自分の気になることを研究することでしか、時間の流れの中で正直であることはできない、ということ
  • 第14章 「クレオパトラの鼻」が歴史を変えるのか
    • 歴史における偉人の役割についての言及がある
      • 愛読書の中の「ナポレオン」に関する記述も(よく考えると、この本の全体も)、「べき乗則」的な歴史観だったのかなーと思う

君たちはどう生きるか (岩波文庫)

君たちはどう生きるか (岩波文庫)

  • 第15章 歴史物理学の可能性
    • 非平衡物理学の範疇になるだろう
    • 観察すること、記録すること、そこからしか始まらない
    • そういう意味では、歴史〜観察して記録すること〜は科学の始まり
  • 読後
    • 医療介入とは
      • 疾病という状態の変化が、べき乗則的な面があるとしたら(なくはない)、砂山の雪崩、それがいつどのくらいの規模で起きるかが予測不可能なとき、唯一、できる介入は、砂粒を落とすペースを緩めることか…